霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: D3-3
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口頭発表
“他個体との近接維持”がニホンザルの食物パッチ滞在時間に及ぼす影響
*風張 喜子
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抄録

 食物がパッチ状に分布する場合,動物が各パッチへどのように時間を配分するかは,採食効率の最大化の観点から説明されてきた.パッチ内での採食効率は,パッチの質と相関し,パッチ内の食物が消費されるにつれて低下する.この採食効率の低下に応じて,他のパッチへ移動することで,長期的な採食効率が最大になる.そのため,採食効率の高いパッチほど滞在時間が長くなる.さらに,群れで採食する場合は,パッチ内の食物が早く減少するので,滞在時間が短くなると予測されている.しかし,実際には採食効率が低下しないうちにパッチを立ち去る場合や,多くの個体で採食するほど滞在時間が延びる場合も多い.他個体との近接を保とうとする性質が,パッチ立ち去りの意思決定や滞在時間に影響を及ぼしているためだと指摘されている.そこで,本研究では,メンバーの決まった持続的な群れで暮らすニホンザルを対象に,他個体の追随(他個体との近接維持)のためのパッチ立ち去りが,滞在時間に影響を及ぼすこと検証した.野生の群れのオトナメスを観察し,パッチ内での採食効率の変化とパッチ立ち去り前後の行動を把握した.これらから,各パッチの立ち去り理由(他個体追随,その他:個体間干渉,採食効率低下,飽食)を判別し,立ち去り理由および採食効率と滞在時間との関係を分析した.その結果,採食効率の低下によるパッチ立ち去りはほとんどなく,採食効率も滞在時間に影響を及ぼさないことから,採食効率の最大化では滞在時間を説明できなかった.一方で,他個体との近接維持のために,食物パッチへの時間配分が左右されることが示された.他個体追随のためにパッチを立ち去った場合の方が,他の理由(主に,飽食)によって立ち去った場合よりも滞在時間が短かった.他個体追随のためにパッチをあきらめた結果,滞在時間が短くなったと考えられた.

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© 2013 日本霊長類学会
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