抄録
シカ類の行動圏面積を変化させる要因は気候や生息地などで,いずれも時空間スケールに依存していることが報告されている.一方,ニホンジカにおける研究では生息地による行動圏面積への影響は検証されているが,気候による影響を直接的に検証した例はなく,また異なる時空間スケールも考慮されていない.そこで本研究では,年間および季節内のような時間スケール,90%および 50%行動圏のような空間スケールのそれぞれにおいて気候がニホンジカの行動圏面積をどのように変化させるかを検証した.
行動圏面積を算出するために北海道,支笏洞爺国立公園にて捕獲したニホンジカメス 11頭から 1年間の GPSデータを取得した.季節移動時期を除いた GPSデータから,固定カーネル法により,月毎における 90%および 50%行動圏面積を各個体で算出した.気候による行動圏面積の変化を年間と季節毎(夏と冬),90%および 50% 行動圏に分けて GLMMによる解析をした.応答変数は log変換した行動圏面積とし,正規分布を仮定した.説明変数は気象観測所から取得した気温と降水量,積雪深(冬期のみ)とした.また,モデルにはランダム効果として個体の効果を入れた.
年間を通した行動圏面積の変化には,気温が上昇すると行動圏面積が増加する傾向があった(P<0.001).一方で降水量は影響を与えていなかった.冬における行動圏面積の変化には,積雪深が増加すると行動圏面積が減少する傾向があり(P<0.05),降水量および気温は影響を示さなかった.しかし,夏期における行動圏面積の変化には気温,降水量どちらも影響を与えていなかった.年間および季節内(夏と冬)における 90%および 50%行動圏の 2つの空間スケールでの傾向は同様であった.以上の結果より,年間および季節内のような時間スケールによって行動圏面積を変化させる要因が異なることが示された.