抄録
ボノボは複雄複雌の集団を形成し,そのメンバーが離合集散する.隣接集団との出会いは時々起こり,必ずしも敵対的でない社会交渉が集団間のメンバーで見られる.集団のメンバーは固定しているが,若いメスは性皮の腫脹を始めると出自集団から他の集団へ移籍する.しかし例外の報告もあり,ロマコでは見知らぬオスの移入が疑われる観察があり,ワンバでは子持ちのオトナメス 2頭とオトナオス2頭が移入した例がある.いずれも人為的攪乱による個体数の減少という特別な事態が影響した可能性が考えられるが,このような例外的な事象がどのような状況下で生じるかは,分散の性差の進化的基盤と至近要因を考える上で重要である.本研究では,個体識別に基づく長期調査が継続するワンバのボノボの E1集団について, 2007年から 2012年の集団間の個体の移籍について報告する.この期間,3個体の若い未経産メスが移入し,後に出産し居住メスとなった.少なくとも 3個体の若い未経産メスが一時的に滞在したが後にいなくなった.少なくとも 2個体のワカモノメスが性皮の腫脹が始まった頃に移出した.オスの移入はなかった.これらの若いメスの移出入は,いずれも E1集団が隣接集団と出会いを繰り返すとき,あるいはその後に起こった.ボノボの集団間の個体の移籍には,集団間の出会いが重要であることが示唆された.おもに単雄複雌集団を形成するゴリラは,集団間の出会いにおいてのみメスの移籍が起こる.ボノボと同じ複雄複雌集団を形成するチンパンジーでは,集団間の敵対関係が厳しく,ボノボのような集団間の接触のないまま若いメスの移籍が起こる.ワンバのボノボは,分散したパーティーも比較的安定したまとまりを維持するため,集団間移籍に集団間の接触が必要なのだろう.集団間の出会いの時期の分析を合わせて,集団の出会いを誘因する社会的力学について考察する.