抄録
ゴリラは,通常,単雄複雌の集団を形成しており,オスは生まれた集団から移出することが知られている.ゴリラは行動圏を隣接集団と大きく重複させているが,隣接集団のオス間の血縁関係は詳しくわかっていない.そこで,カフジのヒガシローランドゴリラを対象に,父系遺伝する Y染色体上のマイクロサテライト領域(Y-STR)の多様性を調べた.2011年,2012年に合計 9集団のネストサイトから,糞試料を採取し,アメロジェニン遺伝子の一部を増幅し,性判別を行なった.その後,オスと判別された試料について,Y-STR,7領域の解析を行ない,8集団 50試料で 7領域すべての遺伝子型を決定できた.7領域中,6領域で多型があり,7つのハプロタイプがあった.7つのハプロタイプ中,4つのタイプが複数集団で見つかった.8集団中複数の試料でハプロタイプが決定できたのは 6集団であったが,そのうち 5集団で集団内に多様性があった.多様性の見られた集団のうち 3集団では 1つのタイプが過半数を占めていたが,収集された糞サイズから推定すると,集団内のオトナオスがそのタイプを持っていることが明らかになった.ゴリラでは群れ外婚の報告がないこと,カフジでは子供を伴うメスの移籍が観察されていることを考えると,集団内の Y-STRの多様性は,メスがオスの子供を伴って移籍した結果であると考えられる.また,最近形成されたと思われる小さい集団で見つかったハプロタイプは隣接集団のハプロタイプと一致していた.これは,若いオスがメスを連れて自分の出身地域の近くに新しい集団を構えた結果を示しているのかもしれない.最近ニシローランドゴリラで,生まれた集団から遠くへ分散することを示唆する結果が報告されているので,オスの分散距離は種や環境によって異なっている可能性が考えられる.