抄録
イチジクは,特定の結実時期を持たず,非同調的に結実するという,他種では見られない大きな特徴を持つ.その特徴のため,イチジクは食物が不足する時期の代替資源として,熱帯を中心に霊長類など多くの果実食者にとって非常に重要な食物資源とされている.一方,温帯では,植物群集全体の結実の季節性が熱帯よりもさらに大きいので,イチジクの非季節的な結実パターンに,動物がどのように反応しているのかを知ることは,興味深い課題である.本研究では温帯に生育するイチジク属のアコウ(Ficus superba)を対象とし,動物による果実消費量について,一年を通した調査を行った.調査は 2011年 9月から 2012年 9月までの毎月約 10日間,鹿児島県屋久島の西部海岸域で行なった.調査の結果,年間を通して最も多くアコウ果実を消費していたのはニホンザルとヒヨドリだった.果実消費量はそれぞれ全体の 87%と 6%を占めており,ニホンザルによる利用がヒヨドリに比べて圧倒的に多かった.しかし季節ごとに見てみると,夏はニホンザルによる利用が圧倒的に多かったが,冬になるとニホンザルによる消費は激減し,代わりにヒヨドリによる消費が大半を占めるようになった.季節変化に影響する要因を一般化線形モデルで解析したところ,ニホンザル・ヒヨドリともアコウと他種果実の結実木割合に影響されていたが,気温による影響は両者で異なった.ニホンザルは気温が低いときにアコウの採食が少なくなった.冬は食物を探すことによるエネルギー消費がアコウ果実から得られる栄養などの利益を上回る.そのためアコウ果実の消費が冬に減少したのだと考えられる.一方でヒヨドリは,冬に昆虫食から果実食へと切り替わるため,冬に果実消費が増加していたのだと考えられる.