抄録
旧世界ザルはオスが産まれた群れを離脱するオス分散型の社会構造をもつ.ニホンザル( Macaca fuscata)のオスは性成熟前に群れを離脱し他の群れに加入したり単独であるいはオスグループを形成して生活したりする.オスはその一生のうちに群れやオスグループへの加入と離脱を繰り返したりするが,どのような過程を経て集団に加入するのかは明らかにされていない.本研究では群れ外オスが多く生息しオスグループの存在も報告されている宮城県金華山島のニホンザルを対象として,オスが集団に加入していく過程の検討を行う.金華山島に生息するニホンザル 1群の群れオスとその遊動域内で観察された群れ外オスを対象とし,2008年と 2009年の非交尾季と交尾季にそれぞれ 710時間,750時間の野外調査を実施した.29頭のオスの個体追跡を行い,連続記録でグルーミングの交渉相手と回数を記録した.これらの記録からソーシャルネットワーク分析によって各個体の集団内での位置を分析する.調査期間中にメンバー構成の変動が見られ,すべての期間で観察された個体は群れオス3頭を含む 6頭(20.7%)であった.2009年の交尾季を除き,新たに観察されるようになった個体はそれまで観察されていた個体よりも中心性が低く,集団の周辺に位置していた.新たに観察されるようになった個体のうち,それまでに観察されていた個体とグルーミングを行った個体は,それ以降の季節でも観察され,グルーミング相手数と中心性が増加し集団の周辺から中心へと移行していた.以上の結果から,群れオスが長期間安定したメンバー構成を持つのに対し,群れ外オスのメンバー構成は変動が大きいことが分かった.また群れ外オスはグルーミングネットワークの周辺に加入し,グルーミング相手を増やすことやさらに周辺に新たなオスが加わることで次第にネットワークの中心に移行していくと考えられる.