抄録
北海道東部の太平洋側沿岸に生息しているゼニガタアザラシ Phoca vitulina stejnegeriは,同じ岩礁を周年上陸場として利用するアザラシで,上陸場である岩礁を休息,繁殖,換毛に利用している.ゼニガタアザラシの個体数は,1970年代の乱獲により 400頭未満まで減少したが,1980年代以降は増加傾向にあり,現在は約 1,000頭以上が生息している.その為,2012年に環境省のレッドデータブックで,絶滅危惧. B類から絶滅危惧.類にダウンリストされた.
調査地である厚岸沿岸の大黒島はゼニガタアザラシの北海道内で 2番目に大きな上陸場であり,出産・育仔の行われる繁殖場でもある.厚岸の大黒島においても近年個体数の増加が見られ,この 30年間で約 5倍に増加し,現在では 250頭程が確認されている.また,それに伴い上陸する岩礁の数も増加したことから,これらにより,大黒島では上陸場競争の激化が起こっているものと予測される.
ゼニガタアザラシは,周年同じ岩礁に集団で上陸するが,個体同士の接触を嫌う為,ある程度の個体間距離を維持して上陸していることが知られている.また,繁殖期になると雌と新生児は,雄とは離れた場所に,互いの距離をおいて上陸し,換毛期は日光を浴び換毛を促す為に多くの個体が長時間の上陸場を利用する.このようにゼニガタアザラシの上陸生態は,彼らの生活史によっても,潮の満ち引きなどの環境要因にも影響を受けていると推測されるが,その詳細は明らかでない.そこで本研究では 2007年から 2012年までの上陸岩礁別の個体数と環境要因から,岩礁別にどの要因が上陸個体数に影響を与えているのかを,一般化線形モデルを用いて解明することを目的とした.
その結果,岩礁ごとに上陸個体数に影響する主要因が異なったが,共通の要因として上陸個体数は潮の満ち引きに影響されていることが明らかになった.