抄録
1980年代から野生動物の調査には VHF発信機を用いたラジオ・トラッキングが行われ,行動圏や環境選択など詳細な生態が明らかにされてきた.しかし,ラジオ・トラッキングには膨大な労力と時間が必要であり,測位精度を上げるためには十分な経験も要する.さらに,車での迅速な移動が困難な環境では,行動圏が広い動物の追跡は非常に困難となる.そこで 1990年代から GPS受信機が大型野生動物の追跡調査に用いられてきた.バッテリー容量と重量により小型動物への適用は難しかったが,近年 GPS受信機の小型化が進んできた.
本研究では,従来の追跡方法で調査が困難な急峻で複雑な島嶼森林域に生息する小型ネコ科であるイリオモテヤマネコとツシマヤマネコについて,GPSテレメトリーを試行し,今後の運用の可能性を検討する事を目的とした.2011年 1月~ 2月にイリオモテヤマネコ成獣オス 2個体,2011年 11月~2012年 2月にイリオモテヤマネコ成獣オス,ツシマヤマネコ成獣オス各 1個体に Telemetry Solutions社製の小型 GPS受信機を装着し,個体位置データの収集を行った.個体位置の測位は 12時間間隔で 1日に 2回行うように設定した.個体位置取得率はイリオモテヤマネコで 8.7 %~31.2%,ツシマヤマネコで 63.2%であり,個体や生息地によって大きく異なった.GPS信号の受信に影響する植生や地形について,亜熱帯で常緑広葉樹林である西表島と温帯で落葉広葉樹林とスギ・ヒノキの植林が混在する対馬の比較を行った.さらに,各個体の行動圏サイズや行動の違いを考慮し,個体レベル,生息地レベルによる個体位置取得率の違いについて考察し,今後の GPSテレメトリー運用について検討を行った.