抄録
ニホンザル (Macaca fuscata)の飼育個体を用いて血液および体毛の炭素・窒素安定同位体比の濃縮係数 Dを調べた.その結果,血液成分全体では, Dd15N=3.0 ± 0.3‰ (mean ±sd), Dd 13C=0.9 ±0.2‰,血漿では,Dd 15N= 4.3 ±0.3‰,Dd 13C= 1.3 ±0.2‰,赤血球では Dd 15N= 3.0 ±0.2‰,Dd13C=0.8 ±0.2‰であった.血漿は血液成分全体および赤血球よりも,d15Nで1.3‰高くなり,d 13Cで 0.4‰程度高くなることが分かった.一方,体毛は,頭部,背部,大腿部といった採取部位による違いはみられず,各部位の値を平均すると Dd15N= 3.4 ± 0.2‰,Dd13C= 2.8 ± 0.3‰となり,血液成分より13Cが濃縮率が高いことが分かった.また,d13Cの顕著に異なる 2種類の餌を約 1カ月毎に交互に与えて,成長しつつある体毛の d13Cに与える影響を調べたところ,ある時期に成長した体毛断片の安定同位体比は,その期間に摂取した餌の安定同位体比を反映することが明らかとなった.以上のような各組織の食物安定同位体比の記録特性を踏まえることにより,各組織の安定同位体比を測定すれば,個体ごとの食性履歴の推定が可能となる.