抄録
北海道・襟裳岬ではゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri;以下,本種)の個体数増加に伴い,秋サケ定置網の被害が拡大・深刻化してきている.早急な対策が求められているが,本種の季節的な行動圏や利用水深等の情報はほとんどなく,どのように秋サケ定置網以外の漁業との軋轢があるのかは明確でない.そこで本研究では,秋サケ定置網で混獲された本種に衛星発信機を装着し,季節的にどのように周辺海域を 3次元的に利用しているかを明らかにすることを目的とした.本研究で使用した発信機は,アメリカの Wildlife Computers社の MK10-AFで,ARGOS衛星と GPSの両方から位置情報を得られ,さらに最大潜水深度,利用水深,潜水時間等も取得できる.得られた位置情報から,個体ごと行動圏と行動圏面積を算出した.また,水深データから個体別,季節別の利用水深や潜水時間の違いを調べた. 2012年,秋サケ定置網に混獲された計 12頭(当歳 4頭 /1歳以上 8頭)のアザラシに衛星発信機を装着した.その結果,個体差は大きいものの,定置網時期は他の時期に比べ,沿岸に沿って行動圏を広げていた.この時期,ほとんどの個体が沿岸ぞいの 50m以下の浅い水深を利用しており,これらの場所は定置網の設置場所と被っており,定置網を餌場にしていることが示唆された.冬に向かうにつれ,行動圏はえりも岬の南下・外洋へ行動圏を広げ,また春になるにつれその行動圏が狭くなる傾向がみられた.さらに,すべての期間において,行動圏は一歳以上の個体ほど小さく,当歳獣は広い傾向がみられた.これらのことから,一歳以上の個体は季節ごとに特定の餌場を学習しており,当歳は餌場を確保するために経験を積んでいるものと推測された.