抄録
霊長類の多くの種で成体メスが自分の子以外の子に興味を示し,触ったり抱いたりする行動が見られる.これらの行動は infant handlingと呼ばれており,様式や頻度は種によって様々である.この違いは種の寛容性の違いが影響していると考えられている(Paul, 1999).アビシニアコロブス Colobus guerezaは infant handlingを頻繁に行うことが知られているが,なぜ頻繁に起こるのかは明白にされていない.カニクイザル Macaca fascicularisなどでは,成体メスが母親に毛づくろいすることで,その後に infant handlingが起こりやすくなる(Gumert, 2007).本研究では,アビシニアコロブスの infant handlingが毛づくろい行動によって促進されているかを検討した.
王子動物園(神戸市)のアビシニアコロブス集団(成体オス 1頭,成体メス 3頭,子 2-4頭)のうち観察期間に子がいた成体メス(母親)2頭を対象とし,groom,infant handlingなどの行動を全生起法で記録し,行動の連鎖解析を行った.2011年 7月-2012年 8月の 38日間行い,総観察時間は 64時間であった.
成体メスは他個体の子を handlingする直前に有意に高い頻度で母親に毛づくろいを行っていたが,成体メスが子を handlingする時間と,infant handlingの直前に成体メスが子の母親に行った毛づくろい時間との間に有意な正の相関はみられなかった.infant handlingの直前に子の母親に毛づくろいをしなくても子を handlingすることもあった.成体メスは直前に毛づくろいをすることでより容易にhandlingを行える可能性があるものの,子を handlingする対価として母親に毛づくろいを行っているわけではない可能性が示唆された.むしろ母親に毛づくろいをすることによって,毛づくろいを受けた母親が抱いている子を離すことが多いため,子の handlingが容易にできたと考えられた.