抄録
神奈川県の丹沢地域には 13群 2集団のサル群が生息しているが,害獣としての加害レベルや人慣れ程度は群れによって異なる.本研究の目的は,サルの人馴れに影響する要因を探ることにある.調査対象としたのは,加害レベルの異なる 5群(川弟群,煤ヶ谷群,日向群,鳶尾群,S群)である.調査者が各群の個体に接近したときに,サルが調査者から逃走を始める距離(逃走距離)を 2006~2012年に測定した.
s得られた 831例から1)加害レベルと逃走距離との関係をみると,加害レベルが高いほど逃走距離が短くなる傾向があり,最も加害レベルの高い S群の平均 10.0mから,最も低い川弟群の 27.0mまでの差があった.2)滞在場所(森林・人里)ごとの逃走距離をみると,川弟群,煤ヶ谷群,日向群のいずれについても,森林滞在時の逃走距離(平均 19.0~33.0m)よりも人里滞在時の逃走距離(平均14.9~22.2m)が有意に短く,人里滞在時の方がサルに近寄れた.サルは集落や農地を潜在的に危険な場所と認識しているが(吉田ら , 1995),そのような場所における逃走距離が森林内より短かった原因は不明である.森林内の予期していない場所に人が出現したことがサルを強く驚かせたのかもしれない.3)調査者の性別と滞在場所(森林と人里)が逃走距離に及ぼす影響をみると,人里では男性(平均21.5m)と女性(平均21.6m)の間に有意な差は認められなかった.しかし森林内のサルは男性(平均33.0m)を見かけた際に,女性(平均17.5m)よりも有意に長い距離で逃走を始めた.4)人里付近に定住して人と接する機会の多い煤ヶ谷群について,7年間にわたる逃走距離の経年変化をみたところ,男性調査者(2006-2009年)・女性調査者(2007-2012年)ともに逃走距離の有意な経年変化は認められなかった.