抄録
近年,野生動物調査に使用する GPS首輪は衛星電話の回線を利用してデータを転送し, PC上でデータを閲覧できるものが開発されてきた.また技術革新により,GPSの測位性能も向上していると考えられる.そこで本研究では,GPS首輪を用いて林内において測位試験を実施し,従来型と最新型の測位精度(正確度:絶対座標とのずれ,精密度:測位点の分散)を評価し,測位精度に影響を及ぼす要因について考察した.
実験は酪農学園大学内の林内で行った.大学構内及び周辺の上空が開放した地点で VRS-RTK測量を用いて絶対座標を求め(RMS誤差 4.2cmと4.6cm),これを元に測量を行い,林内に落葉広葉樹と針葉樹の複数の林相を含むように座標既知点を 6点設定し,テストサイトとした(以下「RGT(Rakunogakuen GPS Test-sight)」とする).「4500S」実験に用いた GPS首輪は従来型の GPS_4500S(以下,とする)及び最新型のGPS_IridiumTrackM2D(以下,「Iridium」とする.共に Lotek社製)である.これらを座標既知点に同時に設置し,15分毎に 1回の測位を 24時間実施して比較した.実験は 2012年 9月に実施した.
実験の結果,両首輪ともに測位成功率は 100%であったが,4500Sの正確度は 6地点の平均で3.4m,精密度は 16.7mとなった.一方,Iridiumの正確度は1.9m,精密度は 8.8mと 4500Sよりも良好であった.GPSの精度として一般的に利用される 2DRMS値でも Iridiumの精度が有意に精度が高く(P<0.01),4500Sが 37.10であったのに対し,Iridiumは 19.65であった.各地点の上空の開空度と精度には正の相関がみられ,Iridumでは 0.58となり,上空の開空度が測位精度に影響を与える要因のひとつであることが考えられた.