抄録
三重県に生息するニホンザルの生息範囲は,ほぼ連続的に全県におよび(特定哺乳類生息状況調査報告書 (平成 23年),環境省),その農作物被害額は毎年全国でもトップクラスにある(全国の野生鳥獣による農作物被害状況について,農林水産省).今回は,三重県内に生息するニホンザルのオスの Y遺伝子検査とメスのミトコンドリアDNA(mtDNA)の第1可変域の検査から,三重県内のニホンザルの分布について,性特異的な標識遺伝子の地理的な分布構造を明らかにし,マネジメントに利用する基礎データを収集することを目的とした.また,オスについては,和歌山県で野生化している外来種であるタイワンザル遺伝子の拡散状況のモニタリングも目的とした.
オスは 83個体について Y染色体上のマイクロサテライト DNA標識3座位の多型を検査し,メスは64個体について mtDNAの D-loop第 1可変域の塩基配列の分析を行った.
オスのY染色体は 15タイプに分類された.複数のタイプ内に広範囲の個体が含まれており,多様なタイプが広域に分布していることが確認された.タイワンザル由来とみられるタイプは確認されなかった.メスの mtDNAは 26のハプロタイプに分類され,亀山市周辺を境に大きく南北 2グループに分類された.過去に D-loop第 2可変域の分析で大きく 2グループに分類された傾向と同じであった(Kawamoto et al. 2007).このうち北のグループは本州系統の遺伝子であると考えられる.南のグループは紀伊半島固有の遺伝子タイプで,松阪市,大台町付近を中心に周辺へ拡大したことが予想できた.
今後,分析個体を増やして,さらに群れごとに細かい遺伝的構造を明らかにしていくとともに,タイワンザル遺伝子の拡散状況のモニタリングも行っていく予定である.