抄録
アルファサテライト DNAは,霊長類のセントロメアで主成分となる反復配列である.ヒトのアルファサテライト DNAは 2量体~ 15量体といった高次構造をとることが知られている.この高次構造はチンパンジー・ゴリラ・オランウータン等の大型類人猿にも存在する.ただし,ヒトほど複雑ではない.これらのヒト科とおよそ 1400万年前に分岐したとされるテナガザル科に関しては,探索はなされているものの高次構造が未だに見つかっていない.このため,高次構造はヒト科とテナガザル科が系統分岐した後に,ヒト科の系統で生じたと考えられている.本研究の目的は,テナガザル科でのアルファサテライト DNA高次構造の有無を詳細に分析し,高次構造の起源をより正確に推定することである. そのために,テナガザル科 4属 (Hylobates, Hoolock, Symphalangus, Nomascus) 各 1種のゲノム DNAから,アルファサテライト DNAをクローニングして,その塩基配列を解析した. Symphalangus syndactylus(フクロテナガザル)のアルファサテライト DNA約 9kbからは,4量体と 6量体からなる高次構造が見つかった. Nomascus leucogenys(クロテナガザル )のアルファサテライト DNA約 12kbでも 9量体を形成していた.しかし,この 2属に関してはアルファサテライト DNAに高次構造があっても,セントロメア領域アルファサテライト DNAだとは断定できない.テナガザル科 4属の内この 2属において,染色体末端付近のサブテロメア領域でアルファサテライト DNAが増幅しているからである.これは,テナガザル科の活発な染色体構造変異の影響だと考えられている. サブテロメア領域かセントロメア領域かは未だに明らかでないものの,テナガザル科のアルファサテライト DNAにも高次構造があることが確認できた.そのため,アルファサテライト DNAの高次構造はヒト科とテナガザル科の共通祖先において出現したことと推測される.