抄録
飼育下の動物が,本来の生息地ではほとんど観察されないような行動をおこなっていることはよく知られている.たとえば,飼育施設内の同じ場所を行き来することを繰り返す常同歩行行動などである.こうした行動は異常行動といわれ,動物福祉を考えるうえでネガティブな指標として捉えられることが多い.チンパンジーにおいても,多くの異常行動が報告されている.その多様さゆえ,異常行動の発達や発現の背景は異なると考えられるが,これらの行動の分類・整理はされていない.
そこで今回,過去の知見の精査,および行動観察をとおし,チンパンジーの異常行動を整理した.文献のレビューは,1960年代から出版された論文のうち,チンパンジーにおいて異常行動を扱ったものを対象とした.同じ行動に用いられている用語が文献により異なる場合は再定義し,エソグラムを作成した.エソグラムは,さらに行動パターン・行動の発達する環境・行動の結果もたらされる影響をもとに分類した.さらに,京都大学霊長類研究所のチンパンジー 14個体を対象に,2008年 4月から 2013年 3月までの観察記録を元に,該当する行動が観察されたかを記載した.
結果 59種類の行動が異常行動として報告されていた.うち,野生下でも報告があるものが,7種類含まれていた.また,残りの 52種類の行動のうち,先行研究より発達の背景がある程度具体的に推察できたものは 4種類であった.たとえば,Repetitive rockingなどの行動は社会的な接触が限定的な人工保育と関連があることが一貫してみられたが,そのほかの行動には一貫した傾向はみられなかった.
霊長類研究所のチンパンジーに見られた行動は,うち 26種類であった.全体として,食行動を含むものが多く,来歴との関連は先行研究と一致していた.今後,こうした行動エソグラムを異なる環境下,または違う種と比較していくことでその背景をあきらかにしたい.