抄録
ニホンヤマネ Glirulus japonicusは,冬眠や日内休眠など特殊な生態を有していることから研究対象として注目されている一方で未だ不明な点が多い.また,天然記念物に指定されており観血的な調査が困難なことから,非接触による生体計測が求められる.非接触による生態観察として,過去にマイクロ波を用いて冬眠中のニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicusの生体計測を試み,呼吸数の概日リズムなどを捉えたことから,本研究では冬眠中のヤマネの心活動,呼吸活動の観察に対してこの手法の適用を試みた.
対象個体は展示動物としての制約があることから,調査は 2012年 12月から 1月下旬までの数日間のみを対象とした.使用したマイクロ波は,一般の無線 LANに用いられる 2.4GHzの周波数帯を用いたものとし,安全かつ電波法に準拠したものを利用した.その出力波形に対して周波数解析を行い,心活動および呼吸活動の変化に相当すると考えられる周波数帯をそれぞれ 1~10Hz,0.5~ 4Hzと仮定し,その帯域のピーク周波数変化を観察することとした.
その結果,活動期から冬眠期への移行過程である 12月中において,心活動,呼吸活動の変化に相当すると仮定した周波数帯にピークが確認でき,冬眠期間と考えられる 1月下旬には,心活動,呼吸活動それぞれのピーク周波数が 2Hz(120bpm),1Hz(60bpm)付近まで低下することを確認した.また,このピーク周波数に数分から十数分程度の周期的な変動があることが確認できた.
このことから,非接触による生体計測は有効であるとともに,ヤマネのより詳しい生態を動物園来園者に伝える飼育展示技術における有用な手段である可能性が示唆された.