霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-204
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ポスター発表
飼育チンパンジーの性皮の腫脹にともなう異性間の近接度の変化:夜間の就眠場所と昼間の認知実験参加の記録
*市野 悦子*松沢 哲郎
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抄録

 京都大学霊長類研究所では 14個体のチンパンジーを飼育している.本研究報告の執筆時点で,全員が 12歳以上で,うち 1個体は下肢の麻痺があって仲間とは同居していない.残る 13個体(男女比3:10)を 2群に分けて飼育している.かりにA群とG群と呼ぶ.2012年 6月に,計画的に次世代を作る群れづくりを開始した.それ以前は,A群は 6個体で男女比は2:4だった.男性 2個体は,推定 37歳のアキラと,人工授精でできたその息子で 13歳のアユムである.G群は 7個体で男女比は 1: 6だった.アキラ-アユムという父系のもと自然交配で次世代を作ることを構想した.ただし人工哺育のアキラは交尾ができない.母親が哺育したアユムは交尾行動ができる.そこでアユムを父親候補とし,G群にいたパン(29歳女性)を母親候補として群れ間で移籍させて次世代繁殖を試みた.両者の過去 1年間のようすを報告する.交尾の目撃例は少ない.アユムとパンの個体間関係を,性皮の腫脹に着目して,夜間の就眠場所と,昼間の認知実験参加という 2つの指標から検討した.夜間の就眠場所については,チンパンジーの夕食後の就眠場所を記録した.昼間の認知実験参加については,実験施行記録を参照した.この 2つの行動を,パンの性皮腫脹のレベルと関連づけて分析した結果を報告する.避妊薬の投与をやめると,パンの性皮は平均約 38日で腫脹と退縮を繰り返した.以下の 3点が明確になった.パンの性皮が腫脹すると,1)夜間にアユムはその近くで寝る,2)昼間にアユムは認知実験に参加しないでパンと一緒にいる.3)また,この 1年間を通してみると,アユムとパンが日中および夜間に近接している日数が徐々に長くなっている.両者の関係が徐々に近いものになりつつある傾向が読み取れた.なお 2個体目の母親候補としてクレオ(13歳)もG群からA群に移籍させた.その経過も合わせて報告する.

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© 2013 日本霊長類学会
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