抄録
マンドリルの大人オスの顔は,真っ赤な鼻筋とその両側の青みがかった皮膚のコントラストが特徴的で,霊長類の中でも際立って「目立つ」顔だと思われているが,実際にサルにとって目につくのだろうか.このことを検証するために,京都市動物園で飼育されているマンドリル 4個体(オトナオス1,オトナメス1,コドモメス2),チンパンジー 4個体(オトナオス2,オトナメス2),シロテテナガザル1(オトナオス)を対象に視覚的好みを調べるテストをおこなった.本実験の参加個体はすべて,本実験以前にタッチモニターに対する訓練を完了していた.課題は Tanaka(2007)で用いられた自由選択課題で,画面上のランダムな位置に提示されるスタート刺激に触れることで試行が開始された.画面に 6枚の写真が提示され,参加個体が触れた写真が拡大され 5秒間提示された.一度選択した写真は消されて,残った 5枚の写真の中で 1枚に触れると,その写真が拡大して 5秒間提示された.提示刺激は,マンドリル,同じマンドリル属のドリル,マンガベイ属,ロフォセブス属,ゲラダヒヒ属,ヒヒ属からそれぞれ 1枚で構成した.各種(属)について 30枚の写真をそれぞれ 2回ずつランダムな組み合わせで提示した.テストの結果,マンドリル 4個体,チンパンジー 4個体では,特定の種(属)に対する選好性は示されなかった.マンドリルの隣に展示されているテナガザル 1個体のみ,マンドリルに対する選好性を示した.参加個体の選択傾向を検証するため,Tanaka(2007)で用いた刺激セットを用いたテストをおこなったところ,チンパンジー 3個体とテナガザル 1個体,マンドリル 1個体で先行研究と同様の,ヒトの写真に対する選好性が示され,参加個体がランダムに選択していたのではなかったことが示唆された.以上の結果から,マンドリルの顔がマンドリルにとって視覚的に目に付くわけでもなく,その他の種にとっても注意をひくものでもないことが示唆された.