霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-213
会議情報

ポスター発表
北海道十勝地方における肝蛭( Fasciola sp) のエゾジカ ( Cervus nippon yesoensis ) への寄生状況に関する研究
*尾針 由真*押田 龍夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 人獣共通寄生虫である肝蛭類は,主に有蹄類の肝臓および胆管に寄生する吸虫で,肝蛭症の原因となる.近年,ウシ等の家畜の肝蛭症は減少傾向にあるが,野生のエゾシカでは高率に肝蛭が感染しているという報告があり,エゾシカの個体数の増加に伴って家畜およびヒトへの感染の拡大が懸念される.このため野生のエゾシカにける肝蛭の寄生状況を把握することは,畜産業および公衆衛生双方の観点から重要になると考えられる.そこで本研究では,家畜の飼育頭数が多い北海道十勝地方において,野生のエゾシカへの肝蛭の寄生状況を把握し,今後の肝蛭症拡大対策の基礎資料を呈示することを目的とした.調査期間を 2012年 5月から 10月とし,十勝管内および十勝の外縁部であるえりも町と阿寒湖周辺に設定した調査地において,エゾシカの糞を拾集し,虫卵検査を行った.十勝管内から計 507サンプルを拾集し分析した結果,寄生率は 14.20%であったことから,十勝地方におけるエゾシカの肝蛭感染は既報の地域のものと比較すると低いレベルにあることが示唆された.また,北海道の食肉検査所のウシにおける肝蛭感染データに基づいて,エゾシカとウシの肝蛭寄生の関連性を比較したが,明瞭な関連性は見られなかった.しかし低いレベルであっても肝蛭に感染したエゾシカ個体が十勝に存在することは明らかであり,今後は家畜への感染と併せて,山菜等を摂食することによるヒトへの感染についても,歯科個体群動態に基づいて留意することが重要であろう.

著者関連情報
© 2013 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top