主催: 日本霊長類学会・日本哺乳類学会大会
焦電型センサーを用いた自動撮影カメラは,動物の体表温度と背景温度との温度差を検知して作動する.本研究では背景温度が動物の検知率にどの程度影響するか調べた.実験には 3種類のセンサーカメラ(FieldNote Duo,LtlAcorn5210および TrophyCam Basic Model)を用いた.さまざまな背景温度(0-35℃)のもとで,1)37-38 ℃に保った中型動物大のプラスチックケースおよび2)着衣の人間をカメラから 2-4m離れた場所で画面を横切るように動かし,シャッター作動率を求めた.また,体毛に覆われた中大型哺乳類の体表温度は体温より低いことから,放射温度計を用いてアライグマとウマの体表温度を放射温度計で測定した.
背景温度が 31℃以下では1)2)のすべてのカメラが正常に作動した.しかし1)では 32℃以上(体表温度と背景温度の差が 5-6℃以下)になると検知率が低下しはじめ,35℃(温度差 2-3℃)になると,検知率は機種によって 70-90%に落ちた.2)では背景温度が33℃以上になると検知率が低下しはじめ,35℃では機種によって 50%に低下した.カメラ機種についてみると,TrophyCamは背景温度の影響をほとんど受けていなかった.アライグマとウマの体表温度は,背景温度 23-24℃において胴部は 28-30℃,毛の少ない顔面は 31-32℃であった.これらのことからみると,陽当たりの良い場所における夏季昼間の自動撮影では背景温度が撮影率に影響している可能性が高い.動物体表温度の低さから見ると,更に低い背景温度下でも影響があるかもしれない.こうした可能性は,実際の野外撮影結果からもうかがえた.