霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-221
会議情報

ポスター発表
シカの糞の分解率の季節変化および標高間での違い
*小池 伸介*曽我 昌史*江成 広斗*小坂井 千夏*原口 拓也*根本 唯
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 ニホンジカ(以下,シカ)の密度モニタリング法の一つとして糞を用いた方法(糞粒法や糞塊法)がある.こうした方法を実施する上で,実施場所での糞の分解率を明らかにする必要があるが,実施場所内での糞の分解率に差異が存在する場合には調査精度が低下する可能性が考えられる.糞の分解率には降雨といった気象条件のほか,食糞性コガネムシ(以下,糞虫)の活動が影響することが知られる.また,糞虫の活動に影響を及ぼす要因には季節,植生などが知られるが,気温も大きな影響を及ぼす.そのため,ごく狭い範囲であっても,標高が異なることで糞虫相や糞虫の活動状態に違いが存在する可能性がある.さらに,この違いはシカの糞の分解率にも影響を及ぼしている可能性がある.そこで,栃木県・群馬県の足尾・日光山地において,シカの糞の分解率を異なる標高間(標高600,900,1200,1500m)で調査し,その季節変化についても検討した.調査では,シカの糞を毎月,各標高に設置し,設置後 24時間および 1カ月間隔で糞の分解率を計測した.また,同時に毎月,各標高でピットフォールトラップを用いて糞虫の採取もおこなった.さらに,各調査地では温度も計測した.糞虫の活動には気温が大きく影響し,温度が高いほど活動する糞虫の量は多かった.そのため,糞虫の量や活動期間は標高によって異なった.また,活動する糞虫の量が多いほど糞の分解率も高かった.同じ標高では,糞の分解率は夏期を中心に高かった.また,同じ時期では,糞の分解率は低標高ほど高かった.一方,糞虫が飛来しない冬季には,設置した糞は翌春まで分解されはじめなかった.以上の結果より,標高差のある山岳地帯で,糞を用いたシカの個体数推定法を用いる場合には,標高間の糞の分解率の違いにも考慮し,実施時期等を検討する必要があるといえる.

著者関連情報
© 2013 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top