霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: MS-3
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ミニシンポジウム
希少哺乳類の繁殖に関する共同研究の実績を目指して~動物園・実験室・野生をつなぐ~
*久世 濃子
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抄録

 現在,少なくない哺乳類が絶滅の危機にさらされており,野生下での保全はもちろん,生息域外(飼育下)での遺伝的多様性の維持も重要視されている.また野生下では繁殖に関わる行動は観察や測定が困難なことが多く,飼育下での研究は対象種の繁殖生態を理解し,効果的な個体群の維持管理計画を策定する為にも欠かすことができない.本発表では,近年用いられるようになってきた,哺乳類の発情や授乳期間を正確に測定する新しい実験的手法を紹介する.次いでこれらの手法を用いて,飼育下及び野生下でのオランウータンの繁殖生態に関する共同研究と,動物園での繁殖成績の向上を目指す取り組みを紹介する.

(1)近赤外分光法を用いた希少哺乳類の繁殖整理研究:木下こずえ(京都大学)
 飼育下で一定の個体数を長期間維持するには,適切な繁殖計画に沿った個体群の管理が必要であり,日常的に雌の生理状態を把握していることが望ましい.通常,雌の生理状態は酵素免疫測定法や放射免疫測定法を用いたホルモン濃度測定により調べられているが,これらの方法は測定に時間を要し,多くの試薬や放射性同位体元素を必要とする為,動物園等ではほとんど使用されていない.本発表では,試薬を必要としない近赤外分光法を用いた迅速・簡便な雌の発情モニタリング法について,ジャイアントパンダ等の研究例を紹介する.

(2)微量元素を用いた哺乳類の離乳年齢の推定:蔦谷匠(東京大学)
 授乳は排卵再開の抑制にはたらき,雌の繁殖生態を研究する上で,正確な離乳年齢や離乳過程を知ることは非常に重要である.しかし野生下及び飼育下において,行動観察だけでは正確な離乳時期を特定することは困難である.近年,微量元素を調べることで,離乳時期をかなり正確に特定できることがわかってきた.本発表では霊長類を含む哺乳類の骨,歯,糞中の安定同位体比や元素濃度を測定することで,飼育下及び野生下において離乳時期を特定した研究を紹介する.

(3)野生×飼育~オランウータンの陰部腫脹を例にして:田島知之(京都大学)
 オランウータンの雌は他の霊長類種とは異なり,妊娠時にのみ陰部が腫脹し,野生下で雌の妊娠を識別する手がかりとなる.腫脹の発達に関連するホルモン動態のモニタリングは野生下での実践が困難であり,飼育下での研究が重要である.野生下と飼育下の双方から相補的にアプローチする研究例を紹介する.

(4)オランウータンの繁殖に関する共同研究:久世濃子(国立科学博物館)
 オランウータンは絶滅の危機に瀕しているが,哺乳類の中で最も繁殖スピードが遅いため,飼育下での繁殖においても様々な困難に直面している.我々はオランウータンの繁殖を総合的に理解し,飼育下での繁殖成績の向上を目的として,ヒトの産婦人科学の研究成果も取り入れた新しい共同研究を立ち上げたので,その概要を紹介する.

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© 2013 日本霊長類学会
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