霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: MS-13
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ミニシンポジウム
滑空性哺乳類の移・食・住-植食性他種との比較
*浅利 裕伸*嶌本 樹
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抄録

 日本産滑空性哺乳類は,直接観察の他,発信機や自動撮影カメラでの調査によって研究が進歩していると言えるが,研究者が少ないという大きな課題がある.そのため,今後の研究の発展に向けては,「新たな知見の共有」と「若手研究者の育成」が不可欠である.
今回のミニシンポジウムでは,ムササビ・ニホンモモンガ・エゾモモンガと同様に植物食であり,樹上・地上空間を利用可能なニホンザルとニホンリスの研究者を交えて,採食物および繁殖について発表していただく.滑空性哺乳類とその他の植食性動物の採食・繁殖の関係を知ることにより,今後の研究の可能性について考えてもらいたい.
《演者》
・谷口晴香:ニホンザルにおける食物の季節変化と繁殖の季節性との関係
 一般に,繁殖の季節性は,生息環境の季節変化に応じて効率よく子孫を残すための適応であると考えられている.ニホンザルは食物生産量が比較的高く,タンパク質に富む食物が多い春に出産する.そして,冬前には,アカンボウはミルク以外の食物を積極的に採食するまでに成長している.本発表ではニホンザルにおける食物の季節変化と繁殖の季節性との関係について紹介する.

・矢竹一穂:直接観察法によるニホンリスの採食と繁殖の生態的特性
 ニホンリスは日本の中では数少ない昼行性であり,直接観察法による行動調査が可能な種である.本種は生息環境の違いによってマツ類やオニグルミ等の少数の食物(メインフード)に強く依存する傾向がある.しかし,メインフードは結実期が限られるため,木本の花・芽,草本,キノコ類など様々な食物を利用している.また,貯食習性によって食物が乏しくなる季節に対応している.このような食物の季節変化,採食特性と繁殖について考察したい.

・嶌本樹:タイリクモモンガの繁殖と採食物の関係
 タイリクモモンガの繁殖期は地域差があるが,これは一般的に採食物と関係しているためと考えられている.繁殖期のエネルギー要求量は妊娠期と泌乳期で大きいと考えられ,北海道では,2月下旬~ 3月上旬と 6月中旬~ 7月上旬に繁殖期を迎え,妊娠期と泌乳期に多くの食物を利用できように適応していると考えられる.しかし,利用する食物の個々の栄養成分の詳細は不明であるため,今後は栄養分析などにより,繁殖との関係を詳細に調査していく必要がある.

・浅利裕伸:ムササビの採食物の季節変化と繁殖シーズン
 ムササビは,本州・四国・九州に分布し,生息地域の植生に合わせた採食物を選択するうえ,多様な樹種や部位を利用し,どの地域でも採食物の季節変化がみられる.また,授乳時期~幼獣の独立時期(5月,9月)には,成葉の利用が少ないことや堅果類の採食物が利用可能な時期であることから,高栄養価の植物が利用可能な時期に幼獣の独立が起こっていると考えられている.今回は,ムササビの採食物の季節変化と繁殖に関する内容を紹介する.

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© 2013 日本霊長類学会
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