霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: MS-16
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ミニシンポジウム
野生動物の行動観察法入門1-あなたの行動観察法だいじょうぶ?
*中川 尚史*井上 英治*南 正人
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抄録

 日本では,ニホンザルやニホンジカの研究が戦後間もない頃から行われてきた.彼らを「餌付け」することにより至近距離からの観察を可能にし,徹底的に観察することを通して,彼らの顔やその風貌だけで個体識別をする.そのうえで様々な行動を事細かに記録して,それを長期にわたり続けていく.必要なのは,双眼鏡,フィールドノート,鉛筆のみ.「餌付け」はその後,餌を用いないで動物を人に慣らせる「人付け」へと変わっていったが,「個体識別」,「長期継続調査」は,日本霊長類学のお家芸となり,今や世界標準となった.
 近年,GPS,データロガー,カメラトラップ,遺伝子解析,放射性同位体解析などなど,野生動物の生態調査のための調査機材や技術の進歩が著しい.これらにより,夜行性の動物の生態や,昼行性でも急峻な山林や海に生息していて,直接観察が困難な動物の生態が明らかになりつつある.しかし一方で,こうした革新的な機材や技術に過度に依存して,いつしか直接動物を観察することを忘れてはいないだろうか? 直接動物と対峙し,自らの目を直接通して観えたものを記録する.実に単純ではあるが,だからこそ分析して出てきた結果にも自信がもてる.その動物のことが心底分かった気になれる.そう思えるのは,自分自身が観てきたものだから.そして何より楽しい.見えない動物の生態が,機材や技術を駆使して “みえる ”楽しさも分からないわけではない.しかし,そうした楽しさを追求する皆さんにも,ぜひ直接観察を体験してもらいたい.見えない時に動物がいったい何をしているのか,イメージしやすくなるはずである.
 本集会は,まず,野生動物の行動を正しく分析するために必要な行動データ収集法について紹介する.初心者向けに収集法を紹介するだけでなく,行動観察を始めたばかりの学生が陥りやすい誤りや問題点についても発表する.次に,それぞれ異なる分類群に属する野生哺乳類の行動について,直接観察の実践者から,特にデータ収集法に重きをおいて静止画・動画を交えながら発表いただく. 本集会を通じて,行動の直接観察が身近なものとなり,自分でも実践してみようという方々が増えることを期待している.

   趣旨説明:中川尚史(京都大学大学院理学研究科)
   演題1 方法編:行動データ収集法
       井上英治(京都大学大学院理学研究科)
   演題2 実践編①:クリハラリスの対捕食者行動を例に
       田村典子(森林総合研究所多摩森林科学園)
   演題3 実践編②:ノラネコの雄間のマウンティングを例に
       山根明弘(北九州市立自然史・歴史博物館)
   演題4 実践編③:ニホンザルの毛づくろい中の抱擁行動を例に
       下岡ゆき子(帝京科学大学生命環境学部)
   演題5 実践編④:ニホンジカの交尾行動を例に
       南正人(麻布大学獣医学部)

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© 2013 日本霊長類学会
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