霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: A3-5
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口頭発表
ユーラシア産ヒグマのミトコンドリアDNAハプログループ分析法の開発および系統地理的解析
*平田 大祐*A Abramov*G Baryshnikov*増田 隆一
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抄録

 ヒグマ (Ursus arctos)は,ユーラシア大陸から北米大陸にかけて広く分布し,北海道および南千島にも生息する.ミトコンドリア DNA (mtDNA)の分子系統解析により北海道ヒグマは異所的に分布する 3系統 (道央,道東,道南)からなり,各系統は北海道に渡来する以前にユーラシア大陸で分岐したと推定されている (Matsuhashi et al. 1999; Matsuhashi et al. 2001; Hirata et al. 2013).その証拠として,北海道に最後に渡来したと考えられている道央ヒグマは,ユーラシア大陸に広く分布する東ヨーロッパ系統と西アラスカ系統に近縁であることがあげられる.一方,道東ヒグマは東アラスカ系統に近縁であり,道南ヒグマは北米系統に近縁とされている.しかし,道東ヒグマと道南ヒグマにそれぞれ近縁または同じ系統のヒグマ集団はユーラシア大陸からは見つかっておらず,両系統が北海道に渡来する以前にユーラシア大陸で分岐したという直接的な遺伝的証拠を欠いている.
 そこで本研究では,ヒグマ mtDNA全塩基配列 (Hirata et al. 2013) から得られた一塩基多型 (SNP)の情報に基づき,ヒグマ mtDNAハプログループを分類する ampli ed product length polymorphism (APLP)法を開発した.この APLP法では,100 bp前の短い DNA断片が残存していれば遺伝子増幅できるように工夫した結果,百年以上前の古い乾燥標本にも適用できることが明らかとなった.この方法を用いて,ユーラシア大陸広域からの乾燥標本を分析した結果,大陸南部の複数の地域において,道東ヒグマ集団と同系列の mtDNAをもつ集団が分布することが初めて明らかになった.これらの地域がユーラシア大陸におけるヒグマの氷期レフュージアであった可能性が示唆された.

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© 2013 日本霊長類学会
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