霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: B2-6
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口頭発表
福島第一原発事故後のアカネズミ尿中 8-OHdG濃度について
*友澤 森彦*坂本 信介*佐藤 淳*山田 文雄*小泉 透
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抄録

 福島第一原発事故によって放出された放射性物質の野生動物への影響は住民および国際社会の大きな関心事であるが,その遺伝的な影響や生理状態に及ぼす影響,またそれらのモニタリングの手法などについての情報は少ない.放射線被曝によって遺伝的な影響が生じる経路の一つとして細胞内の他の物質に放射線があたって生じた活性酸素が二次的に DNAを酸化することによる間接的経路がある.そこで本研究では環境中の放射性物質が野生動物集団に与える遺伝的影響を捉えるために,尿中の 8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)の濃度を計る事で DNAの酸化ダメージを計る事を試みた.8-OHdGは酸化ダメージを受けた核酸が修復される際に生じる代謝産物で,放射線被曝によって増加する事が示唆されている.2011年より福島県飯舘村,川内村および茨城県の北茨城市の 3地点でアカネズミを捕獲し,尿中 8-OHdGの濃度を比較した.その結果,幾つかの採集地点間で有意な差が見られたものの,空間線量率に応じた尿中 8-OHdG濃度の増加は見られなかった.一方臼歯摩耗度から推定される個体の齢段階に応じて尿中 8-OHdG濃度は高い傾向を示した.また個体ごとの筋肉中の放射性セシウム濃度と尿中 8-OHdG濃度は同一地点で捕獲された個体の間で大きくばらついており,両者の間には相関関係は見られなかった.以上の結果から,採集地点におけるアカネズミの尿中 8-OHdG濃度に対する放射線被曝の影響は加齢などのその他の要因による影響よりも小さい事が示唆された.また実際の DNAの多型についてもミトコンドリアおよびマイクロサテライトを指標に現在解析中である.

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© 2013 日本霊長類学会
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