霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: B2-8
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口頭発表
低線量地域におけるニホンジカの体内における放射線セシウムの蓄積と濃縮排泄過程
*小金澤 正昭*田村 宜格*福井 えみ
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抄録

 調査は, 2012年 2~ 3月に奥日光と足尾から 78個体採取し,筋肉,心臓,肝臓,肺,腎臓,胃内容物,直腸内糞,血液,羊水,胎児の 10部位について全セシウム濃度を測定し,あわせて細胞遺伝学的な影響を調べるために,染色体分析を行なった.また,餌植物も同時に採集し,測定した.臓器別濃度は,筋肉(n=54)は検出限界未満(35Bq/kgFW以下)が6%,検出限界以上 94%(100Bq/kg越えは4%)であった.臓器類は筋肉と比べて,いずれも値は低く,100Bq/kg越えはなく,むしろ検出限界未満が心臓(n=78)で13%,肝臓(n=78)で6%,腎臓(n=41)で5%,肺(n=77)は 69%であった.血液,羊水,胎児はほとんどが検出限界未満であった.また,染色体には変異は見られなかった.これらのことから,空間線量が低い地域でも,放射性セシウムは筋肉や臓器に広く蓄積しているが,染色体に変異が見られなかったことから子孫への影響は少ないものと考えられた.一方,胃内容物は,奥日光で平均 474 ±49(SE) Bq/kg DW (以下単位同じ,n=30),足尾で平均 873 ± 83 (SE) Bq (n=37)であり,直腸糞は奥日光で平均 896 ±38(SE) Bq (n=40),足尾で平均 2,633 ±134(SE) Bq (n=37)を示したことから,直腸糞は胃内容物よりも高い値を示すとともに地域差が明瞭に認められた.これは,両地区の空間線量と食性の違いを反映した結果と考えることができる.また,シカは摂取したセシウムを食物の消化吸収を通じて,濃縮し,排泄していると考えることができる.

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© 2013 日本霊長類学会
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