霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: B3-1
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口頭発表
モンゴルの野生有蹄類が移動の障害物付近を利用する頻度の季節変化
*伊藤 伊彦*B Lhagvasuren*恒川 篤史*篠田 雅人*高槻 成紀*B Buuveibaatar*B Chimeddorj
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抄録

 モンゴル草原は大型野生動物の大移動がみられる保全上重要な地域であるが,鉄道や国境による生息地分断化が懸念されている.長距離移動の主な要因としては,食物である植物量や積雪の地域的な違いとその季節的変化が考えられるため,人工構造物の存在が野生動物に及ぼす影響も季節的に異なる可能性がある.そこで,長距離移動をおこなう野生有蹄類であるモウコガゼルとアジアノロバについて,鉄道と国境付近の利用の季節変化を明らかにすることを目的とした.2002年から 2007年にかけてモンゴルの広域でモウコガゼルとアジアノロバを捕獲し衛星追跡を行った.モウコガゼルについては 100日以上追跡できた個体(n=24)を,アジアノロバについては位置データが得られた全個体(n=12)を解析対象とした.捕獲開始直後から 2012年 3月までに,7または 8日間隔で取得した位置データのうち,推定誤差が約 1500km以下のデータについて,各個体で 1日 1点を選択し,鉄道または国境との距離を算出した.年間積算移動距離が 1000 kmを超える移動が観察されたにもかかわらず,北京とウランバートルを結ぶ国際鉄道または国境を越えた個体は観察されなかった.追跡期間中に鉄道または国境から 10 km以内を利用したモウコガゼル(n=16)の全位置データ中,鉄道・国境から 10 km以内に位置した割合は月により異なり(p<0.001),最小の 8月には 0.9 ± 0.9%(平均 ±SE)だったが,11月から 3月にかけては 17%以上と増加し,最大の 1月には 35.6 ± 8.5%であった.アジアノロバでは,10 km以内の利用は 10月から 1月までの 4か月間のみで観察された.両種は食物が少ない冬季に食物を求めて移動した結果,障害物に遭遇したが越えられずその付近に滞在したか,付近をさまよったことが示唆される.長距離移動動物が厳しい時期に良い環境に移動できないと死亡率が増加する可能性があるため,鉄道・国境の障害効果を減らすことが求められる.

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© 2013 日本霊長類学会
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