抄録
ミャンマーは東南アジア,南中国およびインド亜大陸に接し,アジアの現生哺乳類相の成立を理解する上で重要な研究対象地域であるが,多くの哺乳類種においては分布域の把握および分子系統学的位置づけが十分になされていないのが現状である.これまで我々は,ハツカネズミ属(Mus)の分子系統学的解析を行い,Mus lepidoidesおよび Mus nitidulusの2種がミャンマー固有種として位置づけられ,また北ミャンマー由来のハツカネズミ属サンプルにおいて,ミャンマーに固有の隠蔽種の可能性があることを示してきた.また Mus caroliにおいてもミャンマーでの初捕獲記録の報告を行った.さらには,有史以前のヒトのユーラシアへの分布拡大に伴い,インドを起源として分布を広げたとされるハツカネズミ Mus musculusにおいてもミャンマーは日本産ハツカネズミの起源を知る上でも重要な地域であることを報告してきた.本研究においては,ミャンマーにおけるネズミ亜科の系統学的背景をそれぞれの種において明らかにする事業の一環として,2013年6月に Nay Pyi TawおよびTounggyi周辺において住家性ネズミ類の採集調査を行った.その結果,ネズミ亜科に属するハツカネズミ,クマネズミ (the Rattus rattus species complex)を含め,4種計18頭を捕獲することができた.これらの4種についてミトコンドリアDNAマーカーを含め分子系統学的解析を行ったので,ハツカネズミの結果を中心にその概要を報告する.