霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: C1-6
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口頭発表
東南アジアのアカゲザル(Macaca mulatta)は雑種か?
*濱田 穣*由樹 森光*フォン サムース*サン エ・ミ*ジー マウンマウン*川本 芳*マライヴィジットノン スチンダ
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抄録

 アカゲザル(Macaca mulatta)はアジアに広く分布し,多くの亜種に分類されていたが,Fooden (2000)は形態学的な地理的変異の低さから,東(中国と周辺)と西(インドと周辺)の2グループとした.その間の東南アジア大陸部に分布するアカゲザル集団の特徴は知られていない.材料と方法:我々は,ラオス中部,タイ東北部と北部,ミャンマー中部とバングラデシュで,アカゲザルの生体計測と体色計測を行い,中国とインドのアカゲザル,およびタイのカニクイザル集団と比較した.結果:ミャンマーと北タイの集団は,東西グループおよびバングラデシュ集団より小さいが,バングラデシュ集団とともに,体プロポーションは東西グループに近似し,座高に対する相対尾長は 50%より短く,西グループに近い.体色(背・腰間のコントラスト)でも東西グループに近い.一方,タイ東北地方とラオス中部の集団は,体が小さく,体のプロポーションはアカゲザルとカニクイザルの中間にあり,相対尾長は 51.5-66.5%と長く,体色コントラストも低い.このように北タイからバングラデシュまでの集団は東西グループ,特に西グループに近似し,インドシナ東半の集団はカニクイザルへの近似性を示す.考察:分子系統発生学的研究によれば,ほんらいアカゲザルとカニクイザル(少なくとも基亜種)は相当程度,遺伝的形質を共有する.インドシナ半島での接点で,両者の間に遺伝子流動が多かれ少なかれあったと推測され,東南アジア大陸部を南北に走る山地系がその経路となったと推測される.アカゲザルはタイ東北地方では,北緯 17度でカニクイザルと接す.ラオス中部・南部での分布域はチュオンソン山地とその周辺で,そこでアカゲザル様マカクは北緯 13度以北に(Minhら 2012),カニクイザルは北緯 16.5度以南(ベトナム)に分布する(Hamadaら 2012).このような分布パターンが両種の間に遺伝子浸透を起こすが,一方で流動の限定性も示唆される.

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© 2013 日本霊長類学会
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