霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: B20
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口頭発表
メキシコユカタン半島Punta Laguna地域のクモザル野生集団に見出した新規L/Mオプシンアレルと新たな色覚多様性
*松下 裕香*PABLO-RODRIGUEZ Miriam*SCHAFFNER Colleen M.*RAMOS-FERNANDEZ Gabriel*AURELI Filippo*河村 正二
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抄録

霊長類の色覚型を決定するのに重要なL/Mオプシンの最大吸収波長(λmax)は3カ所のアミノ酸サイ(180、277、285)の多型の組合せによって決定されるとされてきたが(3サイトルール)、新世界ザルのクモザル亜科は例外であることを我々は以前明らかにした。L/Mオプシンは哺乳類で一般にX染色体性1座位であるが、新世界ザルではアレル多型を示し、それにより高度な色覚多様性をもたらす。クモザル亜科共通祖先のL/Mオプシンに生じたアミノ酸変異Y213Dは別の変異N294Kに大きな吸収波長シフト効果を与え、かつ180番目のアミノ酸置換による効果を打ち消す。したがって配列から吸収波長を推定するには3サイトに加え、これら2サイトを調べる必要がある。我々はこれまでクモザル2種とウーリーモンキー1種から180、277、285及び213、294のアミノ酸構成がSYT:DNであるλmax ~555 nmのアレルと、S(またはA)FT:DKであるλmax ~538 nmのアレルを見出している。他の研究グループによる部分配列決定によりムリキにはこれら以外のアレルが存在することが示唆されており、クモザル亜科のL/Mオプシンアレルの全体像は未解明といえる。そこで我々はメキシコのユカタン半島Punta Laguna地域に棲息するチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)野生集団の調査を行った。糞由来ゲノムDNAを調べた結果、上述の2アレルに加え、新規にSYT:DKとSYA:YNの2アレルを発見した。3サイトルールと2サイトの効果からSYT:DKのλmaxは548 nm、SYA:YNは543 nmと推定される。今後培養細胞系再構成で実測する必要があるが、これらの結果はこれまでλmaxの異なるL/Mオプシンを2アレルしか持たないと考えられてきたクモザルに、少なくとも4アレルが存在し、多様な色覚型が存在することを示唆している。

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© 2014 日本霊長類学会
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