抄録
動物の協力行動を調べる実験課題では、2個体が同時に行動することで報酬を得ることができる場面を設定する。多くの先行研究において、食物の取得に関して寛容性の高いペアや種ほど協力行動課題が成功しやすいことが指摘されており、このことから一般的に寛容性が低い種であるとされるニホンザルでは協力行動課題は成功しにくいと考えられてきた。しかしニホンザルの持つ寛容性の程度には地域差が存在することが指摘されており、淡路島に生息するニホンザル (以下淡路島集団とする) は特異的に高い寛容性を持っているとされる。本研究では淡路島集団を対象に協力行動実験を行い、淡路島集団のニホンザルが協力行動課題を達成できるかどうかを検討した。本研究ではヒラタメソッドを参考に、2頭のサルが1本のヒモの両端を同時に引っ張り、共にエサを得られる装置を設置した。ヒモの片方の端だけを引っ張ると装置が引き寄せられずにヒモだけが抜けてしまい、それ以上課題を続けられなくなった。試行の成功を「少なくとも一頭がエサに手の届くところまで装置を引き寄せること」と定義し、試行の失敗を「ヒモが装置から抜け、課題が続行できなくなること」とした。実験は屋外に設置した装置に自発的に集まってきた個体を対象に実施した。実験は2014年3月から2014年9月まで行い、総試行数は1488試行だった。約6割の試行において課題が成功し、淡路島集団のニホンザルが協力行動課題を達成することができることを確認した。次に協力行動場面でのパートナーの役割の理解の有無について検証した。本研究において、パートナーがいない場面でパートナーを待つ行動を獲得したのは1頭のみであったが、それ以外の個体も試行数を重ねることでパートナーの必要性を理解した可能性が示唆された。このことから協力行動場面ではパートナーの役割の理解と行動の抑制という2つの異なる認知能力を区別して議論することが必要だと考えられる。