霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: A19
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口頭発表
飼育下チンパンジーにおける子どもの社会的発達とその他個体への影響
川上 文人Chloe GONSETH市野 悦子平栗 明実林 美里
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抄録

チンパンジーを対象とした研究はこれまで多くなされてきているが,子どもの発達やそれが及ぼす他個体への社会的な影響に主眼をおいた研究はそれほど多くはない。本研究では乳児の笑顔を中心とした社会的なコミュニケーションの発達と,乳児がその周囲に与える影響について調べることを目的としている。対象は日本モンキーセンター(JMC)で飼育されているマモル(2014年7月25日生まれ,オス),その母マルコ(1998年生まれ)と父ツトム(1985年生まれ)という3個体のチンパンジーであった。この3個体で1つの群れを構成している。観察はJMCの野外放飼場にてビデオカメラを用いて行い,週に合計1時間,各個体を10分間連続で追いかけるフォーカルサンプリング法で撮影した。そのビデオから,探索的に項目を加えつつ37項目の行動(6カテゴリ:表情,発声,社会的行動,養育行動,手を用いた行動,移動)についてその頻度と継続時間を評定した。4か月までの分析で,社会的な笑顔は生後2か月ではじめて観察された。乳児による笑顔の頻度は,乳児をフォーカルとした5時間を超える観察の中で3回であった。笑顔が2か月から増加するという結果は,チンパンジーにおける先行研究,ヒト乳児の研究とも一致する。ヒトとの相違点として,現状では笑顔の頻度が少ないため継続的な観察が必要ではあるが,乳児の笑顔を見て母親が笑顔を表出することがなかった点があげられる。養育行動を見ると,生後10週以降,母親が乳児を地面に置く行動が増加し,乳児が母親の腹部にしがみついて移動する際に母親が乳児に手を添える頻度が減少した。乳児の運動の発達にともない養育行動が変化しつつあることが示唆される。加えて,乳児が自分で移動する頻度の増加により,母親以外の他個体であるツトムと関わることが増加しつつある。乳児の発達が母親や他個体の行動を変容させる様子が今後確認できるであろう。

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© 2015 日本霊長類学会
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