霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: A18
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口頭発表
同居個体の導入による沈鬱状態からの回復:飼育下アカエリマキキツネザルの事例
井上 紗奈新藤 いづみ
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抄録
本研究では、横浜市立野毛山動物園において観察した、ペア飼育中のアカエリマキキツネザルのメスの死亡にともなうオスの“鬱”様の行動低下と、新しいメスとの同居による行動回復について報告する。対象は、同一個体と2年以上のペア飼育歴のあるオトナオス1個体である。観察は目視による行動観察とビデオ分析を組み合わせておこなった。2014年の年末より体調が優れなかったメスが、2015年3月に死亡した。メスの死亡翌日より、オスに食欲低下および閉所への引きこもりといった異常な行動低下が見られた。通常時は飼育室の上部に渡した止まり木を利用しているが、この時は、利用頻度の低い地面に置いたコンクリート製のU字溝の内側に入り、日中ほとんど出てこなくなった。また、餌用トレイへの給餌直後の接近がなくなり、摂食開始までに時間がかかったうえ、全体の摂食量も減少した。2週間後には、午前はU字溝の外に出るようになったものの、午後は再び中に入って出てこなくなった。このオスに対し、新たにメス(既知個体)を4月より同居させた。ケージ越しの顔合わせを1週間おこなったのち同室させたところ、顔合わせ直後からオスの行動が活発になり、飼育室全体の利用がみられた一方で、U字溝内部の利用が減少した。食欲も回復がみられ、給餌直後から摂食をするようになった。また、繁殖期は終了していたが、繁殖期に頻繁におこなわれるマーキング行動が観察された。1週間後の同室開始では、オスの食欲はさらに亢進し、メスが食べなかったときは2個体分の摂食があった。オスメスともにマーキングを繰り返し、お互いがマーキングした場所のにおいを嗅ぐ行動が見られた。初日のうちに求愛から交尾までが観察され、縄張りを主張する合唱を頻繁に繰り返した。同居の効果は顔合わせのみでも有効であったが、同室により行動が多様化し、オスの“鬱”様の行動低下が解消されたことが示唆される。
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© 2015 日本霊長類学会
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