霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: A23
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口頭発表
勝山ニホンザル集団における協力行動
山田 一憲貝ヶ石 優上野 将敬中道 正之
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抄録

ニホンザルは、1個体では得られない利益を、複数個体が一緒に行動して得ることができるのだろうか。Hirata & Fuwa(2007)が用いた実験装置は、協力行動を調べる際の標準的な装置となっており、様々な動物種において利用されている。この装置では、2個体が同時にヒモを引くことで報酬の食べ物を得ることができるが、1個体だけがヒモを引いても報酬は得られない仕組みになっている。この装置を用いた先行研究では寛容性の高いペアや寛容性の高い種ほど協力行動が成立しやすいことが示されており、それゆえ一般的に寛容性が低い種であるとされるニホンザルでは協力行動課題は成功しにくいと考えられてきた。しかしニホンザルが示す寛容性の程度には地域差が存在する。例えば、淡路島集団(兵庫県洲本市)は全国のニホンザル集団の中でも特異的に寛容性の高い集団構造を持つ一方で、勝山集団(岡山県真庭市)はニホンザルの典型である専制的な社会構造を持つ。私たちは、寛容性の異なる2集団で協力行動課題を実施し、その結果に違いが生じるかどうかを検討している。本発表では、勝山集団で行っている実験の結果を報告する。実験は2014年12月より開始し、屋外に設置した装置に自発的に集まってきた個体を対象としている。野外で実施できるようにHirata & Fuwa(2007)を参考に移動可能な装置を製作した。2014年3月までに実施した199試行のうち、2個体が同時にヒモを引き報酬であるサツマイモ片を得ることができたのはわずか2試行であった。ほとんどの試行では、複数の個体が同時に装置に近づくことができず、1個体のみがヒモを引っ張るため、ヒモが装置から抜け、課題が続行できなくなっていた。食べ物の優先権をめぐる順位関係が厳格なニホンザルでは、食べ物が設置してある装置を複数個体が操作することが難しいようだ。ニホンザルにおいて協力行動を成立させるためには、報酬である食べ物を共有できるような条件が必要になることが示された。

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© 2015 日本霊長類学会
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