霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: B3
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口頭発表
ミッシングリンクの尻尾を掴む?!:尾の短縮過程解明に挑む形態学的ならびに発生生物学的アプローチ
東島 沙弥佳
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抄録
霊長類における尾は,環境への適応や系統を反映する重要な形態のひとつである。特に我々ヒトを含む一部の狭鼻猿類では尾が極端に短縮・喪失しており,その進化過程解明は霊長類学積年の課題であった。本研究では、この課題解明にむけ、形態学と発生生物学という全く異なるアプローチを用いて挑んでいる。まず形態学的アプローチとして、現生種における尾長と尾部骨格形態との相関を調べた。尾長と強く相関すると考えられる尾椎数、特に化石等断片的資料でも残存している可能性の高い近位尾椎数に着目し、尾長の異なる旧世界ザル間での変異の有無を検証した。その結果、大きな尾長変異を包含するヒヒ族では、尾長と近位尾椎数とに強い正の相関関係が認められた。次に、そうした形態変異が生み出されるメカニズムを解明するため、胚への実験的操作が容易な短尾恒温脊椎動物であるニワトリ(Gallus gallus)をモデルとし、尾部形態形成過程の解明に取り組んだ。椎骨数ならびに椎骨の原基である体節に着目し、正常胚発生過程における数の推移を計測したところ、孵卵5日目胚と6日目胚の間で体節/椎骨数の減少が見られた。また、体軸形成に関与する遺伝子の一つであるHoxb13が尾部特異的に発現すること、その発現パターンも孵卵5日目と6日目を境に変化することも明らかとなった。どのような形態変異も、発生過程の変化から創出され、発生過程の変化は、ゲノムの変化により生み出されるものである。形態学と発生生物学という全く異なるアプローチを組み合わせた本研究のような取組は、日進月歩のゲノム情報と組み合わせる事により、従来の単独型アプローチでは困難だった、より確からしい霊長類の進化過程解明に非常に有用なものとなると確信している。
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© 2015 日本霊長類学会
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