抄録
腕神経叢における内側上腕皮神経(Cbm)は,C8,Th1で構成される内側神経束の背側より分岐し上腕後面に分布する皮枝で,肋間神経外側皮枝(Rcl)と吻合し肋間上腕神経(Icb)をつくる特徴がある.Cbmは,ヒトを含む一部の類人猿にのみ存在するとされている(相山,1968).本研究の目的は,比較解剖学的手法を用いてCbmの成因およびその形態的意義を明らかにすることである.霊長類間の系統差および運動様式の違いに伴う筋骨格形態の相違に着目し,Cbmは(1)系統による影響を受ける(2)腕渡りを行う霊長類に存在する,という二つの仮説を立てた.そこで,腕渡り移動の狭鼻下目ヒト上科(ヒト,チンパンジー),四足歩行の狭鼻下目オナガザル科(カニクイザル,ニホンザル),腕渡り移動の広鼻下目クモザル科(クモザル)を対象とし,腕神経叢について肉眼解剖学的に調査を行った.