霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P19
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ポスター発表
飼育チンパンジーの長期的なストレスに影響を及ぼす要因の検討:攻撃・親和的社会行動に着目して
山梨 裕美寺本 研森村 成樹野上 悦子平田 聡
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抄録

社会性の強い霊長類にとって、飼育下においても群れ生活は不可欠である。しかし野生環境と比較して空間の広さや社会交渉の相手などに制限が多いことから、社会的なストレスを受けやすい可能性がある。そのため、飼育環境におけるストレスや社会行動に影響を与える要因をあきらかにすることが、群れ飼育の効果を最大限にするために重要である。熊本サンクチュアリのチンパンジーを対象としておこなった我々の先行研究から、体毛中コルチゾル濃度(長期ストレス指標)と攻撃を受ける頻度との間に相関がみられた。ただし、群れによる違いがあったことや、高頻度で攻撃を受ける個体にとって、攻撃を受けること自体が長期的なストレスにつながるのか、攻撃を受ける個体は他個体との結びつきも少ないといった傾向があるのかなどははっきりしていないことも多い。
こうした点をあきらかにするために、今回熊本サンクチュアリのチンパンジーを対象に、攻撃行動と親和行動の詳細を調べることにした。対象はチンパンジー42個体(オス18・メス23)で、2014年6-7月(第1期)、2014年12月-2015年3月(第2期)に合計400時間の観察をおこなった。オスは30分ごとの個体追跡(30秒ごとに行動記録)と、攻撃行動と遊び行動に関しては全生起記録をおこなった。メスに関しては、攻撃行動と社会行動を30秒ごとに行動記録をおこなった。結果、遊び行動が第2期に高い頻度で観察されるなど時期による変化はあったものの、第1期と第2期の間で社会交渉相手の選択などにはある程度の一貫性がみられた。オスのみの群れでは攻撃・親和行動共に、雌雄混合群の個体より高頻度で観察された。群れ構成要素が社会行動の発現に影響を与える可能性が考えられる。今後、攻撃-親和行動の関連の詳細な分析をおこなっていく。

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© 2015 日本霊長類学会
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