抄録
ニホンザルは、基本的にはメンバーがひとまとまりで暮らす凝集性の高い群れを作る。ただし、季節や群れによっては頻繁に分派行動が見られることもある。群れがひとまとまりで動くのを難しくする要因を明らかにできれば、ニホンザルの群れサイズを制限する要因の理解につながるだろう。これまで、群れのメンバーは、採食活動中に採食時間を削減しながら互いの動きを確認し、群れ生活を維持していることが示唆されている。本研究では、分派行動の一因として、採食行動と互いの動きを把握する行動の時間配分上のトレードオフの関係に着目した。食物の獲得が容易でない条件下で採食に偏った時間配分が行われれば、群れのまとまりを保つのが難しく、分派が起こりやすくなる可能性がある。そこで、宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象として、食物条件の異なるさまざまな時期に行動の時間配分と分派行動の頻度を調べた。全調査時期を通して分派行動の観察例は少ないものの、時期によって分派行動の頻度が異なった。また、分派開始の前後の活動内容を正確に把握できた例は少ないが、追跡個体や群れの採食活動中に分派が始まった例が複数あった。採食活動に関わる各行動(処理・取り込み・その場での探索・移動しながらの探索・パッチ内間の移動など)に費やされる時間は、利用できる食物に応じて時期によって異なった。分派行動の頻度が高い時期には、食物の取り込みよりも移動しながらの探索に多くの時間が割かれていた。そこで、採食に関わる各行動に費やす時間と互いの動きを把握する頻度、互いの動きを把握する頻度と分派行動の起こりやすさの関係を分析し、食物の獲得が容易でない条件下では、行動の時間配分上のトレードオフによって分派行動が起こりやすくなる可能性を検討する。