霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P37
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ポスター発表
スリランカのトクザルから分離した腸管寄生アメーバEntamoeba nuttalliにおける遺伝子多型と病原性の解析
橘 裕司柳 哲雄馮 萌K. B. Anura T. BANDARA小林 正規程 訓佳平山 謙二R. P. V. Jayanthe RAJAPAKSE
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抄録

サル類における腸管寄生アメーバ感染の実態を明らかにすることは、人獣共通感染症対策の見地からも重要である。スリランカに生息するトクザルの糞便227検体を6つの地域(ミヒンタレー、ポロンナルワ、シーギリヤ、ダンブッラ、キャンディ、ペラデニヤ)において採取し、PCR法によって腸管寄生アメーバの陽性率を調べた。赤痢アメーバは全く検出されなかったが、形態的に区別できないEntamoeba nuttalliの陽性率は18.5%であり、ミヒンタレーを除く5地域に分布していた。また、E. chattoniは86.8%、大腸アメーバは17.6%の検体が陽性であった。15株のE. nuttalliを分離培養し、その内の7株を完全無菌化した。トクザル由来株の18S rRNA遺伝子は、ネパールのアカゲザル由来株の配列と比較して3塩基異なっていたが、5.8S rRNA遺伝子やInternal Transcribed Spacer (ITS) 1、ITS2の配列には差がなかった。しかし、セリンリッチ蛋白質の遺伝子型は4種類(SL-I, SL-II, SL-III, SL-IV)認められ、これまでに他のE. nuttalli分離株では観察されていない型であった。15株中11株の遺伝子型はSL-Iであり、この型は広範囲に分布していた。一方、SL-IIはダンブッラ、SL-IIIはダンブッラとキャンディ、SL-IVはキャンディとペラデニヤの分離株で認められた。トクザルから分離したE. nuttalliは、アイソエンザイム分析において、ヘキソキナーゼの易動度が特異なパターンを示し、その等電点の違いは遺伝子解析によっても確認された。さらに、無菌培養虫体をハムスターの肝臓に接種したところ、1週間後には肝臓の38~71%を占める大きな膿瘍が形成された。また、体重減少も認められ、トクザル由来のE. nuttalliは病原性のあるアメーバであることが明らかになった。

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© 2015 日本霊長類学会
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