エネルギー収支(獲得エネルギー量と消費エネルギー量の差)は動物の採食行動の結果であり、生存や繁殖に影響する重要な要因である。食物環境の季節変化が大きい温帯に進出したニホンザルは、食物の多い時期に余剰エネルギーを脂肪として蓄積することが生存および繁殖成功につながる。これまでは冷温帯林にすむニホンザルの研究が中心であり、冬に成熟葉を利用可能な暖温帯林にすむニホンザルのエネルギー収支が1年を通してどのように変化するかはわかっていない。本研究では、屋久島海岸域にすむニホンザルのエネルギー収支の季節変化およびその決定要因を解明することを目的とした。2012年10月から2013年9月の間、2群・9-13個体のオトナメスを個体追跡し、活動、採食時間、採食品目、採食速度を記録した。また、GPSを用いて追跡個体の位置を記録した。獲得エネルギー量は行動データと食物の栄養データをもとに推定した。行動データから採食量を推定し、食物の栄養分析を行い粗脂質・粗タンパク質・炭水化物含有量を測定した。消費エネルギー量は活動時間配分と移動距離をもとに推定した。エネルギー収支は獲得エネルギー量と消費エネルギー量の差分とした。獲得エネルギー量は、果実種子を採食する秋に最も多く、次いで新葉を採食する春、キノコや昆虫を採食する夏や成熟葉を採食する冬に少なかった。このパターンには採食速度と採食時間が影響していた。消費エネルギー量の季節変化が小さかったため、エネルギー収支は獲得エネルギー量と同様に変動し、夏と冬に収支がマイナスとなった。本研究の結果は、冬に成熟葉を利用可能な暖温帯林においても、秋に採食速度の大きい果実種子を採食することが脂肪蓄積を通して繁殖成功につながることを示唆している。