霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: A05
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口頭発表
異なるタイムスケールにおけるニホンザルのオスのグルーミング互恵性
川添 達朗
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抄録

オス分散社会におけるオス間の親和的関係は互恵性の観点から議論されてきた。十分な交渉機会が想定される同一群内の個体間では、互恵性は長期的な時間枠で成立することが多く、短期的な時間枠で互恵性が成立するという証拠は乏しい。ニホンザル(Macaca fuscata)において、群れ外オス同士で見られる親和的交渉は、群れオスに比べ交渉機会は限定的であると考えられ、群れオスと群れ外オスでは互恵性が異なる時間枠で成立している可能性がある。本研究では、ニホンザルの群れオスと群れ外オスの近接時間とグルーミング時間をもとに、交渉機会の違いが、短期的あるいは長期的な互恵性の成立に影響するか検討する。2009年と2010年の非交尾期に宮城県金華山島で、群れオス3頭(延べ6頭)と群れ外オスを含む11頭(延べ16頭)のオトナオスの観察を計671時間行った。各個体の個体追跡を行い、他個体が5m以内に近接していた時間、グルーミングの相手と継続時間を交渉の方向と併せて調べた。グルーミングバウトと互恵性指数を定義し、バウト内と観察期間毎に互恵性指数をそれぞれ算出した。交渉機会の指標となる近接時間割合は、群れオス同士に比べ群れオス外オス同士では小さくなった。バウト内での互恵性指数は、群れオス同士に比べ群れ外オス同士で高かった。バウト内と観察期間全体での比較からは、群れオスは観察期間全体での互恵性指数が高くなるのに対し、群れ外オスはバウト内と観察期間全体での有意差はなかった。これらの結果は、ニホンザルのオスは交渉機会に応じて異なる交渉パターンを持ち、十分な交渉機会がある場合は長期的な時間枠で互恵性を成立させる一方、交渉機会が限定される場合は、より短期的な時間枠で互恵的に交渉することを示唆している。

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© 2016 日本霊長類学会
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