霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: A12
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口頭発表
富士北麓地域における追払いが原因となった野生ニホンザル群の行動圏の変化
吉田 洋中村 大輔北原 正彦
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抄録

本研究では、モンキードッグ(サル追い犬)による追払いが、野生ニホンザル(Macaca fuscata)群の土地利用におよぼす影響を明らかにすることを目的とした。調査は2004年4月から2012年8月に、山梨県富士吉田市および同南都留郡富士河口湖町を生息地とし、67個体で構成される野生ニホンザル群の「吉田群」を対象に、ラジオテレメトリーを実施した。本調査地のうち、富士吉田市の2地区(旭地区・新倉地区)では2007年6月から、富士河口湖町の3地区(河口地区・浅川地区・船津地区)では2008年12月から、体重12~22kgのモンキードッグを用いた追払いが2012年8月まで実施されていた。調査の結果、先に追払いを始めた2地区では、追払いを始めると「吉田群」のコアエリア(MCP method, 50%)から外れたが、後に追払いを始めた3地区はコアエリアのままだった。また「吉田群」は2012年4月頃に分裂し、先に追払いを始めた富士吉田市新倉地区をコアエリアにした。さらに、先に追払いを始めた2地区では、追払いにより出没頻度が22.1%から2.1%に減少したが、後から追払いを始めた3地区では、サルの出没頻度が29.8%から22.2%に減少したものの、その減少量は少なかった(chi-square test, N = 1,101, df = 1, p < 0.01)。これらのことから、Iモンキードッグによる追払いには、サルの群れが人里の利用を避けるようになる効果がある。II野生ニホンザル群は、先に追払いを始めた集落よりも、後れて対策をした集落に執着する。III同じぐらいの追払いの強度では、追払いを早く始めた集落のほうが、後から追払いを始めた集落より効果が高い。IV効果の高い追払いを続けると、群れは分裂して利用できなかった集落を利用しようとする。の4点の可能性が指摘できる。

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