霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: B16
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口頭発表
テナガザル類における声門の形態比較とその機能適応について
西村 剛今井 宏彦松田 哲也
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抄録

テナガザル類は、東南アジアの熱帯林の樹冠に生息する小型類人猿で、現在、Hylobates, Hoolock, Symphalangus, Nomascusの4属に分けられる。この4属に共通して、高いピッチの純音的で大きな音声で朗々と歌う「ソング」とよばれる音声行動で有名である。その音声は、ヒトのソプラノ歌唱と同様に、声道共鳴の第一フォルマントに声帯振動のピッチを合わせる発声・構音方法でつくられる。音声のピッチや大きさは、主として、喉頭にある声帯の振動によって決まり、その声帯振動は、声帯自身の弾性の高さと呼気流の勢いによって決まる。特に、声帯の弾性は、声帯の内部にある声帯筋の収縮に加えて、喉頭軟骨同士の位置関係の変化によって変わる。本研究は、テナガザル4属の摘出喉頭標本を高解像度MRIにより撮像し、その画像データをもとに喉頭声帯の形態学的特徴を多角的に比較し、その機能的適応を考察した。喉頭室は、Symphalangusは喉頭外に伸びて喉頭嚢を形成するが、それ以外の3属では喉頭内で嚢状にとどまる。前者は大型類人猿に共通するが、後者はヒトと共通する。テナガザル4属に共通して、声帯筋が薄く、披裂軟骨の長い声帯突起から伸びる声帯靭帯により、薄い声帯膜が形成される。また、気管軟骨が輪状軟骨の内側に入り込んで、声帯靭帯につながる弾性靭帯が短くて厚い。これにより、声帯膜の弾性は高く維持されやすい。さらに、披裂軟骨には、弾性靭帯側へ大きく膨らむ突起があり、披裂軟骨の内転により、声帯膜の弾性が高めるとともに、声門下の弾性靭帯部で気管径を狭める。これにより、声帯弾性を高めると同時に、呼気流の勢いを容易に強めることが可能である。これらの解剖学的構成は、ヒトや他の類人猿と共通するものの、その形態学的特徴は、高く大きな声帯振動を作り出すとともに、その急激な変化を容易にするのに適していると考えられる。

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© 2016 日本霊長類学会
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