距骨は、足部を構成する骨で最も近位に位置し、距骨滑車関節面により脛骨と、距骨下関節面により踵骨と、舟状骨関節面により舟状骨と関節する。したがって、距骨関節面の3次元配向は、脛骨に対する足部の相対的な姿勢と運動を規定しており、足部の形態、運動、機能の進化を考察する上で重要な情報を提供すると考えられる。そこで本研究では、現代人、現生類人猿(チンパンジー、ゴリラ、オランウータン)、化石人類(アルディピテクス、アウストラロピテクス・パラントロプス、中期更新世ホモ属)、化石類人猿(プロコンスル、ナチョラピテクス)の距骨関節面3次元配向の定量的比較を試みた。具体的には、光学式3次元形状計測器、もしくはCTスキャナーを用いて、各距骨について3次元形状モデルを計算機内に構築した。そしてプロクラテス法に基づいて各距骨を基準座標系に座標変換し、滑車関節面、後踵骨関節面には二次曲面を、舟状骨関節面は主軸を算出することで、各関節面の基準座標系に対する3次元配向を定量化した。3つの関節面の計9つの角度変量を用いて主成分分析を行った結果、化石人類・類人猿の距骨関節面の3次元配向の変異傾向を明らかにすることが可能となった。