マカク属の霊長類は、種ごとに社会交渉における順位間の差、攻撃交渉の特徴、仲直り行動の頻度などが異なり、大きく専制型と寛容型に分類されている。しかし、専制型に属するニホンザル(Macaca fuscata)にも、地域差があることが報告されており、小豆島、淡路島、屋久島の個体群の寛容性が高いことが報告されている。本研究では、寛容性の高い淡路島、屋久島に加え、寛容性の低い嵐山、勝山、金華山の各集団の1群から計298個体分の糞試料を収集し、マイクロサテライト16領域を用いて遺伝的多様性を集団間で比較した。その結果、本土以外の島に生息する、淡路島、屋久島、金華山の個体群の遺伝的多様性が、本土個体群である嵐山、勝山に比べて、低いことが明らかになった。島の個体群では、有効アリル数、ヘテロ接合度の観察値、期待値が、それぞれ2.2-2.9、0.47-0.52、0.48-0.55であるのに対し、本土個体群では、それぞれ4.6、0.76-0.77、0.76であった。3つの指標について集団間の差を検定したところ、有効アリル数とヘテロ接合度の観察値について屋久島と勝山の集団間で有意差が検出されなかった以外は、島と本土間の集団間において有意差が検出された。この結果から、淡路島、屋久島、金華山の個体群は、創始者効果もしくはボトルネックの影響で遺伝的多様性が本土個体群に比べ低くなっていることが考えられる。寛容性の高い淡路島、屋久島では、遺伝的多様性の低下とともに寛容性に関わる遺伝子が固定した、または、集団サイズが小さく血縁者が多かった時期に寛容性が高くなった、という可能性が考えられる。また、いずれの可能性も、遺伝的多様性が低い金華山で寛容性が低いこととは矛盾しない。本データで結論付けることは難しいが、過去に個体群サイズが小さくなったことを経験した集団の一部で寛容性が高くなったのではないかと考えられる。