日本モンキーセンターではモンキーバレイと呼ばれる施設でヤクニホンザル(Macaca fuscata yakui)146頭(♂73頭・♀73頭※4月現在)を群れ飼育している。この群れでは1997年以来、餌のサツマイモについた泥を池の水で洗い流す「イモ洗い行動」が複数個体で確認されている。そこで、日常の給餌時にサツマイモ約15kgを与えた直後から15分間にイモ洗い行動を行った個体を記録した。また、この行動が個体群の特性に関係があるのか検討した。現時点でイモ洗い行動を確認できた個体は全体の約1/3にあたる50頭(♂33頭・♀17頭)で、オスの方が多かった。この50頭のうち、母親にもイモ洗い行動が観察された個体は10頭、母親がイモ洗い行動を行わない個体は20頭であった。残る20頭は母親がすでに死亡しているため、母親がこの行動をおこなったかどうか不明である。このことから、イモ洗い行動が群れに広まった過程には、母子間よりもむしろ非血縁の他個体との関係が影響している可能性が示唆された。年齢ごとにイモ洗い行動を行う個体を比較したところ、各年齢クラスで万遍なくイモ洗い行動が確認された。しかし、2013年以降に生まれた個体にはイモ洗い行動がほとんど確認されなかった。このことから、3才以下の若年齢個体はまだこの行動を習得しておらず、4才以降にならないとイモ洗いは習得できない可能性が示唆された。イモ洗い行動が観察された個体数の日別変動をみると、発情期のピークにあたる10月15日~18日の間はこの行動がほとんど確認されず、ピークを過ぎると徐々に行動する個体が増えていった。このことから、個体の生理的変化によりイモ洗い行動が制限される可能性が示唆された。今後も継続的に記録を収集するとで、伝播経路とその要因、季節や群れ内の順位等との関係など、より詳細な分析を行う。