霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: P07
会議情報

ポスター発表
ニホンザルが攻撃交渉後に行うfear grimaceの働き
上野 将敬山田 一憲中道 正之
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

社会を形成する霊長類集団では、攻撃交渉後に毛づくろいなどの親和的行動を行い、社会関係を修復することで、再び攻撃を受けるリスクを小さくしていることが示唆されている。マカクなどの霊長類は、他者から攻撃を受けた時にfear grimaceを行い、自身が劣位であることを表情で相手に示すことがある。攻撃交渉後に行われるfear grimaceがどのような役割を持っているかはよくわかっていない。本研究では、餌付けニホンザル集団において、fear grimaceによって個体間の対立状態が和らげられるのかどうかを検討した。勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)139頭を対象とした。給餌場面にアドリブ観察を行い、攻撃交渉を発見した場合には、被攻撃個体を1分間個体追跡観察した。観察時には、攻撃交渉の種類、攻撃交渉が終了した時点の個体間の距離、攻撃交渉終了後に再度発生した攻撃交渉、最初の攻撃交渉が終了してから1分後に当該個体間が近接しているか否かを記録した。観察期間は2012年3月から2013年3月までであった。攻撃を受けた個体は、攻撃個体と血縁関係にあるとき、攻撃が身体接触を伴う激しいものであるとき、また攻撃交渉終了時点の相手までの距離が短い時に、fear grimaceを多く示す傾向があった。fear grimaceを示した場合には、攻撃交渉後1分間以内に再度攻撃を受ける割合が少なくなっていた。さらに、fear grimaceを示していると、fear grimaceを行わない場合に比べて、攻撃交渉が終了してから1分後に近接している割合が高くなっていた。これらの結果には、音声の有無よりも、fear grimaceの有無が強く影響していた。以上より、ニホンザルが他個体から攻撃を受けた後、対立状態を和らげる必要が大きいときにfear grimaceを示していた。そして、fear grimaceを示すことで、実際に対立状態が和らげられていることが示唆された。

著者関連情報
© 2016 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top