霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: P23
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ポスター発表
旧世界ザルにおけるサルレトロウイルスの内在化に関する進化系統解析
池田 昌輝遠藤 俊徳長田 直樹
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抄録

旧世界ザルのゲノムには、サルレトロウイルス(SRV)と相同なDNA塩基配列を持つ内在性サルレトロウイルス(SERV)のDNA塩基配列が存在することが知られている。SERVの多くは挿入や欠損などを含んだ不完全な状態でゲノムに存在するが、一部は完全な状態を保っていることが報告されている。また、不完全なSERV配列が組換えを起こすことによって完全な状態になり感染性を再獲得する可能性がある。さらに、旧世界ザルの細胞は細胞製材として使用されているため、SERV感染の可能性は医学的にも非常に重要な問題であるが、SERVが旧世界ザルのゲノム中にどのように分布、進化したかは明らかになっていない。これらの問題に答えるために本研究では、アフリカミドリザル(Chlorocebus sabaeus)、アカゲザル(Macaca mulatta)、アヌビスヒヒ(Papio anubis)、ヒト(Homo sapiens)のゲノム配列に存在するSERV配列を網羅的に探索し、それらの配列を用いて分子系統学的解析を行った。解析は、系統樹作成や同義置換率と非同義置換率の計算を行った。マルチプルアライメントの結果から、旧世界ザルのゲノムに存在する一部のSERVは、全てのタンパク質をコードしている状態でゲノム上に存在していることがわかった。また、得られた系統樹から、SRVとSERVは2つのクラスターに分かれていることもわかった。さらに、探索して得られた塩基配列の非同義置換率と同義置換率を調べて機能的制約の有無を確認したところ、挿入や欠損を含まない塩基配列は機能的制約を受けていることがわかった。解析の結果から、旧世界ザルのゲノム上に完全な状態で存在する内在性サルレトロウイルスは、過去に感染したSRVが機能を失われないままの状態で残っている可能性が示唆された。

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© 2016 日本霊長類学会
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